第1回ER地盤塾 家を傾かせない宅地地盤の考え方

ー選びたい地盤会社、地盤保険・ほしょう会社の特徴ー

(パワーポイント動画18分35秒+解説)

 


▼パワーポイント動画(YouTube)18分35秒

追加解説

ER地盤塾 第一回「家を傾かせない宅地地盤の考え方」 -改良率と事故率(もしくは事故数)-

▶始めに

 ER地盤塾、第一回の動画では、「地盤の事故は毎年多数起きているが、ほぼ事故を起こしていない会社がいる」「事故を起こさない会社を選びたいなら「事故数」と「事故率」に着目する」という話をしました。

 こちらの記事では、少し視点を変えて「地盤会社、地盤保険・保証会社の新しい選び方」を紐解いていきたいと思います。

▶「改良率」について

 住宅会社さんやこれから家を建てようと考えている方で、地盤会社や地盤保証会社を選ぶ時にその会社の「改良率」を気にされることがあるかもしれません。

 改良率というのは、地盤調査をした件数に対して「地盤補強が必要と判定された物件」が何件あったかの割合、ですね。

専門家の見立てからすると、改良率で会社を判断することは出来なくはないですがとても難しいです。その理由は次回に詳しく書きます。今回はもっと単純なところを説明します。

▶「改良率が低い=良い会社」は「判断が正しい(事故を起こさない)」ことが前提

 調査を依頼する側としては、地盤補強を施すとなると当然費用がかかるので、できることなら地盤補強は要らない方がありがたいですよね。そして、

 

・改良率が高い=とても安全側(費用がかかりがち)の判断をする会社

・改良率が低い=妥当なコスパのいい判断をする会社 

 

と、とらえる場面が多いかもしれません。実際に私がセカンドオピニオンをする中で「これは補強しなくてもいいな」と思う物件がたまにあることも事実です。

 ところで当然ですが、改良率の低さで会社を選ぶには、その地盤判断が正しいことが大前提です。が、実際は残念ながらそうではないことが多いです。

▶「地盤調査が原因(判断ミス)」は事故全体の24%、という事実

 下の表と図は地盤の事故の原因を調べた結果です。特に「図―2トラブルの原因別分類」を見て欲しいです。事故の原因を分類して、それぞれが事故全体のどれくらいを占めているか、が分かります。

 

この図に対する所見をざっくり簡単に言うと、「予測するのが難しかった原因(Ⅱ:近隣工事起因)は4% それ以外の96%は検討の余地があった、もしくは検討を怠っていた(怠慢)」となります。しかも、

 

改良率に絡んでくるところの

「事故の原因Ⅴ:地盤調査に起因する事例」が占める割合は24%。

 

 調査自体や地盤判断・基礎選定(つまり地盤補強の要不要)で判断ミスをしたものが全体の2割を超えているのです。

事故原因を調べた結果を見ても、きちんと地盤の判断ができていないことで事故を引き起こしているものが多数、ということがはっきりしました。

▶私が見た判定凡ミスの沈下物件

 私が実際に事故物件の資料と現場を見たものの一部で、どんな判定ミスがあったのかを紹介します。

 一つ目は、盛土造成地でガラやゴミ混じりでそれに引っかかって試験数値が跳ね上がったものを地山の固い層と判断ミスして「補強不要」としたもの。

 二つ目は、非常に弱い数値が出ているにも関わらず、地形が台地だからといって、その地形の土の特性とデータ傾向を無視して地盤が良いと判断ミスして「補強不要」としたもの。

 

 地盤調査結果を読み慣れていない方は意味が分かりづらいかもしれませんが、どちらもきちんと判断できる人はすぐわかるものです。これを見抜けない地盤会社は技術力が足りないと言えるレベルのものでした。

 また、事故物件ではないものの、前の建物の改良体を撤去して土中がほぐされたことを知りながら、弱い数値が出ているのを「丘陵地の地山だから大丈夫」と判断した危険な判定書もありました。

▶「施工不良」は全体の19% 改良率が上がれば安心とも言い切れない

 では改良率が上がれば良いのかというと、そうとも限りません。

「表―3 項目ごとの原因別分類」を見ると「Ⅳ:施工不良に起因する事例」というのがあります。これが原因の事故は全体の19%、約2割にも上ります。これに該当する要因は、「表―2 トラブルの要因別分類」を見ると「地盤改良」が含まれていることが分かります。

 

 ただ、補強工事を施工した現場では、事故要因の全てを地盤会社の検討ミスと決めつけるのは難しいです。地盤会社が提案した補強設計内容に対して、発注者がコストダウンを迫ったり、その地盤には向かない補強工法で施工することを強要したことで起きた事故もあるからです。厳しいことを言いますが、その根本的な原因を簡潔に言うと、「最終決定した発注者が地形と地盤を的確に判断できない中、コスト重視で地盤会社と補強工法を選んだから」です。

▶事故を防ぎたいなら「実績(事故数・事故率)」で選べ、の意味

 「事故を防ぎたい、信頼できる地盤会社を選びたい」なら、

 

・地盤調査の判断が極度に安全側でもなく危険側でもなくて、

・補強設計内容が安全面とコストの両面で妥当かどうか。

 

 を見抜く必要があります。見抜く方法は「地形と地盤を的確に把握できている会社か」に尽きます。しかし、住宅会社さんや家を建てようとしている方がそれを見抜くのは難しいと思います。それなら、

 

 シンプルに「事故を起こしていない会社」を選びませんか。

 

 色々な要因を含めても、結局事故を起こしていない地盤会社、地盤保険・保証会社がいることは事実ですから。

▶まず、地盤会社・地盤保証会社に何を求めるのかを決めましょう

 もちろん「初期コスト重視」で選ぶのもありです。何で選ぶか明確なら、どんな結果でも(沈下を引き起こしたとしても)納得がいくと思います。ちなみに、一般的な木造住宅で沈下事故が起きて修正を選んだ場合、修正工事にかかる費用は数百万円~1千万円台です。その他に原因調査費、仮住居費、建物修復費などがかかります(この話は別の機会にしたいと思います)。

 ですが、求めるものが「品質の高さ」や「安全」ならば、現状は改良率だけで選ぶことは求めるものとかけ離れる可能性があります。

 

 品質と安全を望むのであれば、まず「事故数」と「事故率」でふるいにかけることを強くすすめます。では、その境目はというと、私見ですが

 

 1万件に1件、つまり、事故率0.01%以下

 

 が、ほとんど事故を起こさない会社、と判断してよいと思います(10万件以上では0.005%以下(事故5件以下)の会社があります)。実績が少ない場合は事故数をそのまま判断材料にしましょう。

▶どうやって「事故数・事故率」を確かめましょうか

 地盤保険・保証会社さんは普通に教えてくれるところがほとんどのようです。会社さんや担当営業さんに気軽に訪ねて大丈夫です。

 地盤会社さんにも単刀直入に「御社は事故を起こしたことがありますか?事故率はどれくらいですか?」と聞いてみましょう。もし、明確に返答がない場合や、想像していたよりも事故数が多かった場合は更にこんなことを聞いてみると、その会社さんの真面目さが分かると思います。

 

 ・施工実績(施工エリア、件数)

 ・事故が起きた場合の対処方(マニュアルなど)

 ・再発防止策の整え方(策定方法や効果確認方法、実際の効果など)

 

 もっと大事なことは、複数の会社さんに尋ねて、それぞれの項目を比較することです。1社だけではその会社さんがきちんと対応してくれるのか判断できかねますよね。

▶最後に

 もし、地盤会社や地盤保険・保証会社に「品質」と「安全」を求めるのなら、

「地盤の事故は防ぎようがない」

「地盤の事故は一定数起こるもの」

 という、多発する地盤の事故に目をつぶるような言葉に引き込まれずに、ぜひ事故数と事故率が低い会社を選んでください。