第3回ER地盤塾 なぜ地盤調査が必要?

ー瑕疵保険や地盤保証を付けるためではありませんー

(パワーポイント動画 前編12分36秒、後編20分59秒+解説)

 


▼パワーポイント動画(YouTube)前編 12分35秒

▼パワーポイント動画(YouTube)後編 20分59秒

追加解説

ER地盤塾 第三回「なぜ地盤調査が必要?」

 -ねじれた理由「瑕疵保険・地盤保証をつけるため」が生まれた背景-

参考資料:新松正博「地盤保証制度の特徴と課題」

▶始めに

私は以前、建設会社の試験室にいました。建設工事(土木工事)では、使う材料の種類や施工後の品質管理基準、それらを調べるための試験方法が国・自治体によって決められています。

試験の目的は、

  • 材料が適切か判断する
  • 現場管理(品質管理)の基準値を決める
  • 施工が適切か検査する

となります。

土木工事では、使う材料と施工品質を試験によって管理することが求められています。

 

同じものづくりである住宅も同じように試験・検査が必要なはずですが、戦後の多くの戸建て建築現場では「地盤調査は不要」と考えられてきました。

「住宅は軽いから」とよく言われますが、年間で数百から千件規模で不同沈下事故が起きている現実を考えれば、「軽いから調査・試験・検査は要らない」とは言えないはずです。

 

そんな中、ある時から「瑕疵保険や地盤保証をつけるために地盤調査をする」と言われるようになりました。

なぜ急にそう言われるようになったのでしょうか。

地盤調査の目的が「家を傾かせないため」であるならば、保証をつけようがつけまいが調査は必要であるはずなのに、なぜそのようなねじれた理由が生まれたのか。

その背景を深掘りしていこうと思います。

▶適切な地盤調査・施工管理をすれば、地盤保証は必要ない、はず・・・

まず、地盤保証について考えたいと思います。

適切な地盤調査(資料・現地調査とSWS試験)に基づいて設計・施工すれば事故が起こることはない。

・・・はずですが、残念ながら100%事故を起こさないとは言い切れません。

  • 試験箇所から外れたところに局所的な地盤の乱れがあった
  • 想定外の深度に腐植土が分布していた
  • 人為的なミス

など、どんなに注意を払っていても、沈下事故を完全に防ぐことは難しいです。そのため、責任が生じる事業者は事故が起きた時にきちんと損害を賠償できる体制になっていることが重要です。

▶調査方法

住宅で不同沈下事故が起きた場合、地盤と建物の修復にかかる金額は1千万円台から数千万円台です。通常の地盤補強工事は数十万円から100万円台であることが多いですが、家が建ってしまった後の工事は、地盤・施工ともに条件がとても厳しくなるので金額が高くなりがちで、地盤の修復工事だけで1千万円を超すことも少なくありません。

住宅会社、地盤会社ともに会社の資金力に余裕があれば保証をつける必要はないですが、万が一のこと(事故が起きたのに賠償できないこと)を考えると不安です。

▶最初は「地盤補強工事に対する保証」からだった

そこで、まず出てきたのが地盤会社による「地盤補強工事に対する保証」です。地盤会社が住宅会社に向けて「万が一不同沈下事故が起きた場合、賠償する体制が整っています」という安心を付加価値としたものでした。

この保証の裏付けは損保会社の生産物賠償責任保険(地盤特約付きPL保険)です。地盤会社が行った工事(生産物)に対する保険で、地盤調査は対象外でした。

▶次に「調査の瑕疵も含めた保証」が出てきた

そして、次に出てきたものが「調査の瑕疵も含めて不同沈下事故が起きた場合に保証」するものです。地盤調査は「家を傾かせないため」に行うもので、地盤判断と基礎設計・施工に繋がります。したがって、行為の関係者は

  • 調査・判定・提案をした地盤会社
  • 地盤会社の判定・提案を元に最終決定した住宅会社

となり、「地盤会社が住宅会社へ向けて」と「住宅会社が家を建てようとしている人へ向けて」のリスクヘッジと安心PRツールとなりました。

▶地盤調査が重要視され始めたきっかけ

調査も含めた地盤保証が広まり始めた頃、2000年に「住宅の品質確保の促進などに関する法律(品確法)」が施行され、建物の主要構造部について10年間の瑕疵担保責任が義務化されました。更に、2009年に「住宅瑕疵担保履行法」が施行され、建物の重要な構造部分に瑕疵(欠陥)があった場合、新築の住宅供給者は住宅購入者へ確実に責任を果たすよう「資金力の確保」が義務付けられました。

資金力の確保は、

  • 瑕疵保険法人の瑕疵保険に加入する
  • 保証金を法務局へ供託する

のどちらかです。

確実に責任を果たすことが目的なので供託金は高額です。そのため、年間の着工棟数が多くない住宅事業者さんは瑕疵保険の加入を選択することが多いと思います。

そして、瑕疵保険へ加入するには地盤調査が必須となっていたのです。

▶地盤保証をつける理由

瑕疵担保履行法は基礎の瑕疵による不同沈下は瑕疵保険の対象としています。

しかし、品確法施行当時の建設省の解説では冒頭部分で「主要構造部の中に地盤は含まれない」とされていたため、「地盤が原因で沈下事故が起きた場合、瑕疵保険が支払われない可能性がある」という懸念が広がりました。

また、解説の中では「地盤の状況を配慮しない基礎を設計・施工したために不同沈下が生じた場合は基礎の瑕疵として品確法の対象となる」とされているものの、各瑕疵保険法人の見解が明らかになっていない(統一されていない)ことも、懸念が広まった一因かもしれません。

住宅事業者さんの間では、その懸念を払拭し、「リスクヘッジのPR」のためにも、地盤保証をつけよう、という流れが強まっていきました。

そして、地盤保証をつけるためにも地盤調査が必須でした。

▶事故率0.004%の地盤保険会社の見解

ではなぜ、瑕疵保険に加入する際や地盤保証をつける際に地盤調査が必須なのでしょうか。

ある地盤保険会社は、「地盤保険はきちんと地盤の検討をした上で起こってしまった事故にたいして支払うもの」として、まずは事故を起こさない検討が必要だと言い、そのチェックを第三者機関が行っています。

事故を起こさないきちんとした検討とは、

  • 適切な地盤調査と地盤判定
  • 調査結果と試験数値に基づいた補強設計
  • 適正な施工管理

となります。まさに、土木工事で求められていることと同じです。

▶根本を思い出して欲しい・・・

地盤調査の目的は「家を傾かせないため」です。しかし、そこを忘れられたまま、地盤保証や瑕疵に対する法整備が進んでいったため、ねじれた理由が生まれてしまったのです。

「地盤調査は、瑕疵保険や地盤保証をつける以前に、家を建てるために必要なこと」

分かっていただけたでしょうか。